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2024/12/24

エンド

これで終わり?

「エンド」(加地天)




桜の季節は出会いと別れだというけれど、彼との出会いは紅葉がまだ色づき始める前だった。
もしももっと早くに、そう、この学院での生活が始まったその時に、同じ桜並木の下を歩いていたのなら、なにか変わっていただろうかなんて思いながら、今日で最後になる、通い慣れたこの景色をファインダーに収めようと、いつもみたいにシャッターを切っていた。

そのレンズ越し。
ついさっきまで頭の中で思い描いていた人物の姿が現れて、まるで現実感のないフィルターから視線を外して、肉眼でそれを捉える。
目が合うと相変わらず腹が立つほどさわやかな笑顔でこちらを見ている彼にかける言葉は、一体なんだろうか。

「今日で卒業だね、私たち。」

そんなありきたりな言い草で、一体なにを躊躇しているのだろう。
出会いが早ければなんていいわけで、終わりを迎えようとしている彼との日常を繋ぎ止めることができない感傷を、うやむやにしようとしている。

「うん、そうだね。僕はこの学院にきて、きみたちに出会えて、最高の時間を過ごすことができたと思うよ。だからきみにもお礼を言っておかないとね。」

そうやって迷いなく誰彼構わず正直に感情を表現する癖をやめた方がいいと言ったのは、いつのことだっただろう。
本当はそのせいで、いちいち鼓動が忙しくて自分が迷惑しているだけだという本心を隠して、早1年。
こうして最後の時を迎えるにあたり、思い出すのはちょうどこの春色の空気をめいっぱい吸い込んだ時の寂寞にも似た、苦い心地だった。

「お礼なんていいんだよ、私もじゅうぶん楽しませてもらったしさ。」

簡単な言葉だけじゃ済まされない、特別な想いがそこにはあって、けれど言えないもどかしさが頬を撫でるように優しく、しかし残酷に胸をくすぐった。
とめどなくあふれる、なにげない日常の風景になにかがこぼれ落ちそうで、まだ早いと自分に言い聞かせて笑った。
そうしたら彼も同じようにいつもの笑顔で笑うから、風の中に舞う薄紅の花びらがきれいで、離れたくないと、思った。

「あのさ」

そしてきっと今日を逃せばこの先2度と二人の人生は交わらない気がして、声に出していた。
スタートラインは別々だったけれど、ここで共に過ごした時間は他のどんな時よりも大切で、意味のあるものだとこの終わりに思う。
だから告げよう、彼ともう一度スタートするための言葉。


「卒業式が終わったら、話があるんだけど。」


その提案に、まるで舞い落ちる花びらに乗せるようふんわりとした顔で微笑んだ彼は、頷いた。
桜の季節は出会いと別れと言うけれど、ここからもう一度出会えるだろうか。
まだ誰も知らない、見たことのない2人。
それは想像するとあまりに照れくさく、なんだか落ち着かないけれど、別れるよりもずっと素晴らしく、幸せな始まりだと思うから。


ずっとあなたが好きでした。
今までも、そしてこれからも。
だからどうか、どうか私とーー。




END




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春はセンチメンタルだと思う。

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2016/03/31 SS(加地天)

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