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過去の恋は、もう。
「バラード」(金天)
やんわりとした明るさに目が覚めて、おもむろに時計を確認した。
午前5時過ぎ、起床するには少し早い休日。
けれどぼんやりとしたそのまどろみの中で、隣で眠る中年男の顔を眺め、それがすやすやと心地いい寝息を立てていることに安心をした。
昨日はずいぶんと飲みすぎたらしく、その勢いのままで抱かれたのは、思い出せば少し気恥ずかしく、けれど求められる愛情が嬉しくて、幸せだった記憶。
彼のその泥酔の理由を考えると、ほんの少し、いや、かなり複雑に胸は痛んだけれど。
昔の恋人がたまたま日本を訪れていて、頼んでもいないのに彼の前に現れて、散々と傷口を抉り取っていったのだと、自嘲のように口にしていた。
無論、本人は酔っぱらっていて覚えていないのかもしれないけれど、確かにそれはこちらが泣き出してしまいそうなくらい、切なさにあふれた言葉だった。
天羽菜美は、それを黙って聞いていた。
本当は耳を塞いでしまいたいほど苦しかったけれど、彼の自分だけに見せてくれる本当を受け止めたいと思ったから、聞くことをやめなかった。
大人のくせに、こんなにも脆くて、情けなくて、弱々しい彼のことを、それでも支えたいと思ったのだ。
年下で、ちっぽけで、頼りないお子様だけれど、彼を想う心だけは、他の誰にも、昔の恋人にも負けないと、そう思うから。
「世界で一番、好きだよ。」
言った後で、そっと額にキスをして、優しく頬を撫でた。
たまには自分から、彼のことを包み込みたいなんて、ちょっとませているだろうかと恥ずかしくなり、すぐに背を向けて目を閉じたけれど。
全部私が受け止めてあげるよ。
呟いた言葉は果たして夢の中だったか。
それすらもわからないうちに、再び眠りに落ちた。
そっと目を開けて、華奢なその後ろ姿を見つめる。
こんなにも小さくてあどけないくせに、なんて強い少女なのだろうかと、ざわついた。
手を伸ばして、ゆっくりとその腰に手を回し、抱きしめる。
こんなぬくもりがほしかった。
多分、なにかを失った、その日から。
ありがとう。
その言葉を呑んで、朝日が緩く差し込むその部屋で、ただまどろんでいくのだった。
END
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なんとなく、天羽さんの方が強いんじゃないかと思ったりして。
イメージは、♪きみをまもーるたーめそのために生まれてきたんだーっていう、あれ。
ごちそうさまです。